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進学通信No.74-神戸海星女子学院中学校・高等学校
11
3月
  • 進学通信No.74-神戸海星女子学院中学校・高等学校
  • No.74 . 教育問答 . 神戸海星女子学院 . 進学通信 .

PROFILE
1957年、兵庫県生まれ。大阪大学工学部卒業、同大学院修士課程修了。大学院在籍時に「自分のためだけに生きてはいけない」という視点を得て教職に就くことを決意し、数学科教諭として教鞭を執る。1989年より同校に赴任し、2015年より校長に就任。現在も高3宗教科の授業を担当している。

1951年の設立以来、建学の精神「真理と愛に生きる」に基づく全人教育を実践する同校。自然と形成される自由な校風、伝統の個々を大切にする方針、さまざまな宗教的体験のもとで育まれる価値観や人間力が、進路実現の原動力となっています。校長の糸井孝幸先生に、同校の現状とともに、中等教育の役割や次代に求められる人物像についてお話をうかがいました。

一人ひとりを大切にし自己肯定感を育むことが中等教育の使命
長く中等教育に携われたなかで、特に現在の子どもたちを取り巻く環境について、どのように考えていらっしゃいますか。

 たとえば30年前と比べて思うのは、人間関係が希薄になりがちで、たとえば友だちに「自分は○○をして遊びたい」と伝え、理解を得て遊ぶといった機会、つまり自分の気持ちを相手に伝える機会が少なくなっているように思います。そのため相手に伝える力は身につきにくいですし、相手の考えを理解することも容易ではないでしょう。あるいはスマートフォンなどによる会話が日常化することで、相手の表情などから内面にある本当の気持ちを察する、思いやるといった機会も少なくなっているかもしれません。

 そしてもう一つ、現代は子どもたちの自己受容がうまくいっていない印象があります。つまり自分を見定め、短所も含めて受け入れるということができてない傾向にあるのではないでしょうか。それは“荒れる”原因となります。「私はこのままでいいんだ」と思えるようになることが大切ですが、そのためには、自分の中にある負の部分、たとえば怒りのようなものを外に出したとき、「それでも受け入れてもらえた」という体験が必要なのです。

そうした現状を踏まえ、中等教育の果たすべき役割について、お考えをお聞かせください。

 ありきたりではありますが、一人ひとりを大切にすることが重要だと考えています。カトリック校である本校において、その考え方は揺るぎないものとして受け継がれています。本校は少人数制教育のもと、さまざまな形で教員と生徒との関わりがあり、一人ひとりの生徒を教員全体でサポートする体制が整っています。その根底にあるのは「一人ひとりは神から命を与えられたかけがえのない存在である」というカトリックの精神です。それぞれが抱えている思いを見守り、同じ目線で向き合い、関わる。目指すべき道を一緒になって考える。フランス系カトリックということで、基本的に人は自由であるという認識のもと、本人が望む道をバックアップすることを大事にしています。フランス系カトリックならではの自由な雰囲気は、生徒たちの「自分たちでやるんだ」「自分たちでできるんだ」という協働の精神を育むことにつながっていて、学校生活の中に多くの実践の場を用意しています。『学院祭』『体育祭』といった行事はその一つで、生徒による企画・運営で実施しています。特に学院祭は、『星友会』(生徒会)や通称『学臨』(学院祭臨時運営委員会)の有志メンバーが7カ月ほどもかけて準備を行います。各自で責任を持ち、自分たちの力でやり遂げる体験を通して培われる強い精神力は、今後の人生で必ず活きてくるもの。そういう意味では、本校が創立以来受け継いできた教育の意義はますます高まっていると言えるのかもしれません。

そうした教育を実践するうえで、女子校であることは、どのような利点がありますか。
 自分たちでやり遂げる体験を積み重ねるうえでは、特に「のびのびできる環境」だということが大きいと思います。女子だけの環境のため意見が言いやすい、男子に頼りがちな作業も自分たちでやってあたりまえ、リーダーシップをはじめ自分の能力を遠慮せずにどんどん皆の前で発揮してよいといった共通認識が自然と生まれるからです。そのなかでしなやかな感性が育ち、自分らしさや一生の友だちとの出会い、共感する心が得られます。性別に適した指導のもとで学習効果が上がることも、女子校ならではの良さだと考えています。
人が本当に幸せになる生き方を目指して自分自身を知り困難に向き合う姿勢を培う
貴校では、心身ともに磨かれた、社会で求められる女性の育成を目指す全人教育として、〝祈る心〟〝奉仕の心〟〝異文化を理解する心〟を育むことを重要視されています。

 〝祈る心〟は、神に愛される存在として自己を肯定的に受け入れ、自分らしい生き方を考える姿勢のこと。朝終礼の祈りの時間は、神に願うというよりも、むしろ「自分はどのように行動すべきか」を神に問う時間と言えるでしょう。人は思い込みに陥りやすく、時にそれが大きな壁となりますが、心を無にして祈るなかで、他者、あるいは神の存在が感じられるようになると、新たな視点が生まれ、思い込みから離れて、自分がどのように生きるのかを見出すことができるようになります。

 〝奉仕の心〟 は、相手の立場、背景を思いやる心や、相手のために自らが行動する姿勢を指します。その育成のために本校では、福祉活動に携わる機会を多様に設けています。中1の総合福祉施設訪問、中2の養護学校の生徒たちとの交流など全員参加の福祉教育を実施しているほか、有志による社会奉仕グループも設置。多くの生徒たちが社会に役立つことを自ら考え、老人ホーム訪問、アフリカのスラムにある学校を支援する運動への協力など、興味がある活動に主体的に参加しています。

 〝異文化を理解する心〟とは、価値観・習慣の異なる相手に対して、自分なりの考えを持ちつつ、相手と向き合い、その人の考えや背景にある文化を尊重する姿勢です。本校では創立当初から、積極的に実践的な外国語教育を実施しており、中3からはフランス語を選択することも可能。また中1の『英語発表会』、中2・中3の『英語暗唱大会』、高1・高2の『英語弁論大会』は、本校の伝統行事の一つです。

 加えて、中3ではさまざまな国・地域出身の講師から英語での実践的なコミュニケーションを学ぶ『異文化理解合宿』を、高1では希望者がオーストラリアのカトリック校を訪問し授業やホームステイを体験する交流プログラムを、さらに高2では異文化理解教育の集大成として、建学の精神に触れることを目的の一つとする『フランス修学旅行』を実施しています。先入観や自分の価値観といった殻を破って世界のさまざまな国の文化・人と触れ合う体験から、国際感覚を養いたいと考えています。

 これらの3つの心を育むことは、自分自身を見つめ直すこと、すなわち自己理解につながります。自分を知ることは、自分が生きる道を歩むうえでの前提条件。つまり、自分が理解できないところ、できないことは何なのかを知ることこそが、自分の道を歩むうえでの第一歩です。自分の長所も短所も認めて受け入れることで初めて「私に何ができるのか」「何をするべきか」という次のステップが見え、前に進むことができるのです。

自己実現に向けたサポートにおいては、どのようなことを大事にされていますか。

 重視しているのは、苦しいことや困難なことから逃げないで向き合う姿勢を培うことです。

「今は苦しいけれど、これを乗り越えることが、誰かのために役立つのだ」というように、苦しみのなかに意味を見出してほしい。本校の多くの生徒は難関大学を目指し、合格に向けて大変な勉強や努力をするわけですが、そのようなプロセスも、将来出会うであろう誰かのためにあるのだという発想を持ってほしい。週1回の礼拝朝礼では「もし今、哀しい、寂しい、苦しいことを抱えていたとしても、それはよりよく生きるために必要な一つの段階であり、乗り越えるために与えられたものなのだ」と伝えています。その試練の先にこそ、光があるから。それが真理だと思っています。
建学の精神「真理と愛に生きる」は、そういう生き方を指し示しているのですね。

 真理とは「人が本当に幸せになる生き方」であり、愛とは「人を大事にする」という意味です。人が本当に幸せになる生き方を、愛をもって生きること。本当の自分と向き合いつつ、希望や使命を自覚し、その実現に向けて努力すること。それが、本校が目標としている「真理と愛に生きる」ということなのです。 

 私は高3の宗教科の授業を担当していますが、受験期の励ましになればという思いから、1年をかけて「試練の先にこそ光がある」と伝えています。2学期は、ユダヤ人強制収容所での体験を綴ったヴィクトール・フランクルの著書『夜と霧』を読むのですが、感想文を見ると、多くの生徒はこの本を選んだ意図に気付いてくれています。ある生徒は「人間の愚かな一面とちゃんと向き合わなければいけない」と書いてくれていましたし、「未来への希望が生きる力を生む」という著者の主張を受けて、「使命の自覚が大切なのだ」という生徒もいました。また『夜と霧』の中には、「感受性の豊かな人が生き延びた」という話があります。過酷な労働の後に美しい夕焼けを目にして、仲間とともに「世界はどうしてこんなに美しいのだろう」と語り合い、創造主によって生かされているという気持ちが力となり、その人は生き延びたと。その光景を思い浮かべて「涙が出そうになった」という生徒もいました。生徒たちは着実に、いつ自分に起こるかもしれない困難や苦難を乗り越えて生きていくうえで、それに向き合う姿勢、使命への自覚、豊かな感受性が必要不可欠であるということを学んでくれているのです。
「喜ばれることが喜び」としその姿勢を貫く、強くたおやかな女性の育成を目指して
お話を通して、貴校が高い合格実績・進路実現をかなえている理由を垣間見たように思います。

 本校ではコース制は行っていません。代わりに多様な選択制授業を展開することで、各自が進路に応じた学びを組み立てられるようにしています。少人数ゆえ、クラスにいろいろな分野を目指す生徒が共存しており、刺激を与え合いながら切磋琢磨できる環境です。教員は「勉強しなさい」と促すというよりは、見守るイメージですね。

 ただ将来のことを考える機会として、中3から進路ガイダンスを積極的に実施しています。大学や社会で活躍する卒業生にいろいろな分野の話をしてもらったり、あらかじめ行ったアンケート調査に基づき生徒が興味のあるテーマを中心に、大学の先生を迎えて講義をしてもらったり。そういう機会を繰り返し与え、自分自身で方向性を決めること、「この大学でこの分野を学びたい!」という気持ちが内側から芽生えることが、進路実現に向けた強い力になると考えています。2018 年度からは新たな取り組みとして『企業訪問』がスタート。また現在、早期から進路に対する意識を高めるため、中1から進路ガイダンスを行うことを検討しているところです。

 一方、宗教的な体験は、人生を歩む力につながるものと思います。美しいステンドグラスに包まれて祈りながら、ふと神の存在を感じたり、朝礼で黙祷を捧げるひとときに校舎全体が静まりかえる光景に感動を覚えたり。そうした体験そのものが、心の成長を促すとともに、自分に与えられた使命に気付く機会になると考えています。
今後のビジョンをお聞かせください。

 地球規模の課題に直面しなければならない時代において必要なのは、「他者に喜ばれることが自分の喜びです」と言える人物だと思っています。将来自分がいる場所で、地域や人々のためにならないプロジェクトが進行しようとしているならば、勇気をもって反対することができるような、自分に誇りを持ち、良心に基づいた主張をするような強さを持った女性を育てたいという思いがあります。

 そのためにも、本校が開校当初から培ってきたもの、つまり「真理と愛に生きる」という建学の精神をさらに深化させていきたいですね。宗教的な体験や、それらを通して得られる美しいものとの出会い、たとえば『フランス修学旅行』でのパイプオルガンの音色、

ヨーロッパの自然や街並みといった「美」との出会いが、後々さまざまな局面で、いかに大きな力をもたらしてくれるのか…。美しいものと出会ったというその記憶があれば困難を乗り越える力となり得るのではないかと思います。最後に人を救うのは「愛された体験」と「宗教性と美」だと考えます。学校生活の中にそれらに触れる機会を多く設けることで、その可能性を深く追求していきたいと考えています。

『フランス修学旅行』では、カトリックの精神に触れるとともに、先入観や自分の殻を破り、相手の文化・価値観を尊重する姿勢を育む、同校における異文化理解教育の一つ。

‟祈り”は心を静めて祈るなかで、思い込みから脱却して新たな視点を得る時間。神の存在を意識しながら自分に与えられた使命を認識する。

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