What's new / 進学通信掲載記事 / 進学通信No.70-金蘭千里中学校・高等学校

進学通信No.70-金蘭千里中学校・高等学校
10
3月
  • 進学通信No.70-金蘭千里中学校・高等学校
  • No.70 . 教育問答 . 進学通信 . 金蘭千里 .

PROFILE
1940年、大阪府生まれ。大阪大学法学部から同大学院法学修士修了。約50年にもわたる教育者としてのキャリアを同校一筋で積み重ねた。行政市長や領事らがその名を連ねる、大阪大学大学院国際公共政策研究科(OSIPP)のアドバイザリーボード委員も務める。明朗快活な人柄で、それを慕う教育関係者も多い。

自校を「私塾」「道場」と称し、独自の教育理念と実践が厚い支持を集める同校。2015年に創立50周年を迎え、同時に「次の50年」に向けて改革を進めています。新しい教育手法や概念が次々と登場するなか、その〝不易〟〝流行〟をどう見定めるのか。教育界全体を俯瞰しつつ、同校が目指す方向性について、理事長の辻本賢先生にお話をいただきました。

教育の「個別化」が進むいま、公的な学校の使命を問い直すときではないか
まずは、現代の教育界全体を見渡して感じることや、問題意識などがあればお聞かせください。

 私見であることを前置きしてですが、あまりにも「個別化」が進みすぎているのではないかと感じます。生徒の個性を見きわめた対応や、学習の個別指導などは、もはや完全に一般化されていますよね。もちろんそれらを全否定するものではありませんが、元来は集団教育のレベルの高さがわが国の教育の強みでした。それを忘れて、個人主義一辺倒になり、それが絶対的に正しいものとして行き過ぎてしまうことを危惧しています。

 くり返しますが、生徒の「個」を尊重することを否定するものではありません。私たち教育者も、保護者や生徒も、右へならえ的な解釈で教育の個別化を盲目的に礼賛しすぎではないかという点を不安視しているのです。

 いま日本はアメリカ的な「個人主義」、極端に換言すれば「自分らしくあればそれで良い」という価値観が強くなっています。それも一つの時代の流れでしょうが、それをそのまま教育界に持ち込んで良いのだろうか、と思うのです。他者は自分を映す鏡です。個性とは他者とのかかわりの中から生まれてくるものです。

 もし、学校において教育の個別化を進めるのであれば、中途半端はいけません。英仏の大学に見られるようなチューター(※学生個人への学習的助言などを担う人のこと)制度まで導入して初めて成立するものだと思います。

 学校は多くの「個」が集まって成立する一つの社会です。集まるなら、その集団を前提とした環境整備が欠かせないのではないでしょうか。一方的に個人主義を信奉するのみというのは、学校としての責任放棄と言えなくもありません。生徒一人ひとりの「個」を高めていくことは必要ですが、個人主義的な価値観に学校が飲み込まれているというか、迎合しているというか……。学校本来が果たすべき使命や、存在価値と乖離しているのではないかと感じます。いま私たちに必要なのは、公立・私立を問わず、公教育のありかたそのものをもう一度問い直すことです。

実際には、公教育はどのような存在価値を持つべきとお考えですか?

 もっと「実学的ではないもの」に立ち返るべきではないでしょうか。「実学的」とはスキルベースの考え方です。実社会で直接的に役立つことを目的としています。一方でそれは、経済社会で具体的メリットがない学びは価値がないということ。これもある意味では、損得をベースにした個人主義的なものと解釈できなくもありません。

 本来、教育はリベラルアーツ的存在です。リベラルアーツの語源は「人間を自由にするための学問」。そこから得た教養を発展的に活用し、自らが自由に生きていくための素養とするという考え方です。つまり、「これを学ぶとこんなメリットがある」と短絡的に損得で考えるのではなく、得た教養を自分でメリットに変えていく学びこそ、本来の公教育現場が持つべき価値ではないでしょうか。確かに、その実践を学校で完全に再現するのは難しいかもしれません。しかし少なくとも、教育者はその精神性を持っておくべきだと信じています。

学校を「私塾」「道場」と捉え、師弟ともに人間性を磨くぶれない信念と教育実践
学校・公教育が本来持つべき価値を有するために、貴校ではどのような取り組みをなさっていますか?

 一つ言えるのは、本校を「私塾」「道場」と表現していることです。学校とは、人間を育てる場であると考えています。具体的には、教員の人間力に裏打ちされた強い師弟関係。本校の教員たちは、私を含め、先生である前に一人の人間としてどうあるべきかを常に律しながら生きています。歌が上手なだけで歌手にはなれないように、教科を教えるスキルだけで先生とは呼べないのです。師として尊敬され、信頼されるような人格を磨かずして生徒の前に立つことは、失礼きわまりない行為です。

 「教員」という立場を職業と考えるなら、その職業を通じて、生徒たちに自分の生き方を表現できる人間であらねばなりません。それを介して対価を得ているのですから、自分は「師」であるということを24時間考えてほしい。ある意味で、これも個人主義へのアンチテーゼといえるかもしれません。教員も一人の「個人」ではありますが、ただ自分らしくあればいいというのでは成り立ちません。生徒に接するからには「師」たる自分でいなければならないのです。

先ほど、学校が個人主義に迎合しているのではないかと表現されたように、その点で貴校は独自の理念や原点からブレない印象があります。具体的な教育実践や仕組みで特徴的なものがあれば、実例を教えてください。

まず挙げられるのは、創立以来続けている『20分テスト』でしょう。本校では、いわゆる中間・期末といった定期考査を実施していません。毎朝、1日1科目のテストを行い、日常的に学習の反復と定着を図っています。これは生徒にとっても大切ですが、教員にとっても自らの指導内容を振り返るうえで非常に効果的なのです。

『英国研修旅行』も非常に特徴的ですね。

 実は、この研修旅行の実現は、私の永年の夢だったのです。イギリスのパブリックスクール(英国の超名門・超難関の私立中等教育学校群。英王室の子弟らが通うことでも知られる)の精神である「自主独立」に強い感銘を受け、いつか生徒たちがその気風に触れる機会をつくりたいと思っていました。単なる観光旅行・語学研修やホームステイ体験とは一線を画する「本物」の研修旅行にしたかったのです。希望者を募り、毎年夏に約3週間、『イートン校』『ハロウ校』の寮に寄宿しながら伝統校の雰囲気を肌に刻んでほしいのです。現地では英語で授業を受け、携帯電話も持参禁止で家族とも連絡は取れません。こうした不安を乗り越えながら、エリート中のエリートを育てるといわれる環境の中で学ぶ経験を積んでほしい。実際に、帰国した生徒たちのたくましさは、まるで見違えるようです。

「そぎ落とした50年」「新たに肉付けする50年」
創立50周年を経て、次なる50年に向けての改革も進めていると聞きます。これについてお聞かせください。

 〝不易〟〝流行〟と申しますように、変えてはならない部分と、変化すべき部分があります。変化は、理念なき迎合であってはなりません。本校がより本校らしくあるためのものでないと。

 その一例が、クラブ活動の拡充です。それまで本校では、男子はサッカー、女子はバレーボールを校技と定め、これをクラブに相当する活動としていました。しかし、生徒の自主性がより育つならと、活動の種類と幅を広げることにしたのです。他には制服のリニューアルや、一日で行っていた文化祭・体育祭を分離して実施するようになりました。『演劇ワークショップ』という取り組みも始めています。注目していただきたいのは、これが「国語」の授業の一環であるということ。「読む・書く・聞く・話す」は現代国語の基礎技能でありコミュニケーション技術ですが、リアルな人間関係には、そこに表情や発声、視線なども加わってきます。そこで、プロの劇団員さんを招き「表現」を通じて、言語感覚とそこから得られるものを学ぶのです。SNSを使えばスタンプ一つで簡単に意思伝達ができるこの時代に、相手に「伝える」とはどういうことなのか、相手を「理解する」とはどういうことなのか。表面的な言葉のやり取りだけではない、真の相互理解を深める取り組みとして実施しています。

個性の際立つ貴校において、一般的な学校に見受けられることの多い取り組みが増えたような印象も受けます。そのねらいはどこにあるでしょう?

いったん極限までそぎ落とすのがこれまでの50年、そこから再度肉付けしていくのが次の50年と言えばよいでしょうか。

 飲食店に例えるなら、私は、公立校が「何でもそろう定食屋」なら、私立校は「こだわりの一品料理で勝負する店」だと考えています。極論すれば、私立校は一般受けしなくてもいいと思っているのです。

 そうした信念の中で、これまでの50年は、世間的には「あたりまえ」と思われていることでも、本校らしい教育に不要であると判断したものはそぎ落とす姿勢を大切にしてきました。それは単なる独りよがりではなく、事実としてその中身が支持されたからこそ、50年もの歴史を積み重ねることができたのだと自負しています。

 その50年を、ひとまずの集大成と仮定すれば、無駄や装飾のない本校らしさという幹を創り上げることはできたと感じます。では、次の50年に向けて何をするのかと考えたとき、これまでそぎ落としてきたものを見直して、本校らしさを失わないような形で再現しようという考えです。目指す教育の本質を見失わず、かつ変化を恐れない、次の50年となればよいですね。

辻本校長の永年の夢が詰まった『英国研修旅行』。世界トップのエリート校『イートン校』『ハロウ校』で名家の子弟と学び、ともに寮生活をして3週間を過ごす。

プロの劇団員を招いて自己表現を学ぶ『演劇ワークショップ』。人に「伝える」というコミュニケーションの本質を磨く。
kininarukoushikiwebhekihonjouhouhe