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進学通信No.67-灘中学校・高等学校
15
6月
  • 進学通信No.67-灘中学校・高等学校
  • 2017 . No.67 . 教育問答 . 灘 . 進学通信 .

灘

PROFILE
1952年大阪府生まれ。灘中学校・灘高等学校出身。京都大学文学部卒業後、英語科教員として母校に赴任。野球部・将棋部顧問を務めた。2007年に第8代校長に就任。1学期は中1の道徳を担当し、同校の歴史・校是を語ることで、伝統の継承に努めている。

全国屈指の進学校として知られる同校。創立以来約90年にわたり、リベラルな校風と学問への高い志のもとに教育を展開しています。その実践において根幹をなす校是“精力善用”“自他共栄”の精神、主体性や多様性を育む校風、学力向上につながる取り組みなどについて、校長の和田孫博先生にお話をうかがいました。

“精力善用”“自他共栄”の精神と自由な校風のもと主体性・多様性を涵養
貴校の校是“精力善用”“自他共栄”の意味するところを教えてください。

校是は、柔道の祖として知られ、本校の顧問として開校に尽力された嘉納治五郎先生が定めた柔道の精神でもあります。“精力善用”というのは、自分の力
を最大限に発揮するという意味を持つ言葉。自分の力は万能ではありませんから、弱点を克服していきながら、長所はどんどん伸ばしていきましょうという意味だと理解しています。そして“自他共栄”は、一義的には、互いに個性を尊重し合いながら、全体として調和のとれた幸せな集団になっていこうということだと思います。

中1の1学期は私が道徳を担当し、学校の歴史を語るなかで、創立者の理念としてこの校是を詳しく説明していますが、最近は“自他共栄”にもう一つの意味を持たせて話すようにしています。それは、今いる場所に、自分一人の力で来られたわけではないということを意識することの大切さです。トップに立つ人、指導する立場にある人ほど、周囲に対する感謝の気持ちを持ち、謙虚でなければならない。自分と他者の個性を尊重することと、周囲の支えを意識すること、この両輪があってこそ初めて、“自他共栄”を実践したことになるのではないかと考えています。また、“精力善用”と“自他共栄”は、実は両方とも実践してこそ意味を成す、二つで一つの言葉なのではないかと感じています。

さらにこの二つの言葉は、個人を一つの国に置き換えると、各国が得意なことに力を尽くすことが、世界の平和につながるという意味に捉えることもできます。スポーツや勉強においてはもちろん、国際社会においても、時代を超えて未来においても通用する言葉と言えるでしょう。生徒たちが、学校生活の中で自ら実践するだけにとどまらず、世の中に出たとき、この考えを周囲の人にも広げていってくれることを願っています。

現在、教育改革が進められるなかでさまざまなキーワードが挙がっていますが、建学の精神の実践として社会で活躍できる人物を育てるためには、どのような教育が必要だとお考えでしょうか。

次期学習指導要領にある「主体的・対話的で深い学び」、いわゆるアクティブラーニングにあたるものは、とても大事だと考えています。特に肝となるのは、学びにおいて“主体的”であるということでしょう。勉強を「させられている」という受け身の姿勢ではなく、いかに主体的な学びへもっていくのか。そのうえで必要不可欠なのが好奇心です。好奇心をもって、自分の興味があることについて、あらゆる形で勉強する。学校の教育はその助けとしてあるものであり、学校教育を超えてそうした姿勢を自ら実践できることが、本当の意味で、主体的な学びであるのではないかと思います。

さらに、多様性を育むことも大切です。これは、あらゆるものに適用する個性という意味ではありません。多様性というのは、自分の究めたいところを究め、そのような“個”が集まる場所に生まれるものだと思いますし、そのことは本校の生徒を見ていても実感できます。進学校は勉強ばかりで多様性がない、均一だというイメージを持たれがちです。確かに学力という一面においてはそう言えるかもしれませんが、個性に着目すると、実に多様性に富んでいるのです。 そうした“個”が集まり、自分 にはないものを持っている友人 から刺激を受けて、自分も頑張 る。そうした過程を経て、個人 の中にも多様性が生まれてくる のではないかと考えています。

貴校の大きな特徴の一つである自由な校風は、そうした思いの表れなのですね。

できるだけ自主性を重んじたいと思っています。制服がないことも、色合わせを考えたり、TPOに応じて何を着て行けばよいかを判断したりすることが必要となるため、自主性を育てることにつながります。保護者の方には、翌日に着るものを選んで枕元に置くのではなく、お子様自身に選ばせてほしいと話しています。

行事についても、安全面のチェックなどを教員が行うほかは、企画からSNSを活用した広報、運営まで、生徒会が中心となり、主体的に取り組んでいます。生徒会の選挙もとても本格的で、一つの役職に数人の立候補者が出て、朝からたすき掛けをして選挙活動に勤しみ、政見放送を行います。

こうした生徒たちの姿を見ていると、個々が主体性を発揮でき、友人同士で刺激し合える環境を整えれば、自然と自主性は育つと信じています。

結果につながる学びを実現する6カ年持ち上がり制
高い合格実績を誇る貴校ならではの、学習面における取り組みを教えてください。

主体的に学ぶ姿勢を育むために、以前から、いわゆるアクティブラーニングにあたるものは日常的に実施してきました。たとえば読書に関しては、読んだ本のあらすじと感想をポスティングさせ、それをプリントにして皆に配ることで、他者の価値観に触れさせて刺激を与えるようにしています。またネイティブ教員による英語の授業では、自分の考えを英語で発表する機会を設けていますし、情報の授業では、ICT機器を活用したグループワークの中で、プレゼンテーションを行います。通常の授業においても何か特別なプログラムを設けているわけではなく、各教員、各学年の自由に任せていますので、個性的な授業が多いです。

そして、個々の学力を伸ばすという点で大きな役割を担っているのが、学年担任団の6カ年持ち上がり制です。このシステムのよさは、単に効率的に学力向上を図ることができるというだけにとどまりません。生徒の教科への苦手意識をなくそうという教員の責任感のもと、工夫を凝らしてカリキュラムを展開することにつながるほか、最も多感な時期の生活指導にも、意思統一のうえチームで協力し合うことができます。いろいろな教科の教員が一つのチームとしてまとまり、生徒たちの心身の成長を見守り続ける。旧制中学時代の、生徒を子どもとしてではなく、大人として扱うという雰囲気を受け継ぐものでもあり、これこそが、生徒と教員のコラボレーションが結果につながっている、一番の秘訣だと思っています。

また、わからないところがあるとき、教員だけに頼るのではなく、生徒同士で得意分野を教え合っているケースが多いことも特徴です。以前に行ったアンケートで「わからないことがあったときに誰に教えてもらうか」という質問に対して、60%以上の
生徒が「友人」と回答していました。──そんな貴校で伸びる生徒の共通点は何でしょうか。小学校ではどのような力をつけることが肝要だと思われますか。

本校で伸びていく生徒の共通点は、好奇心旺盛であることだと思います。例えば歴史一つとっても、教員が一方的に教え込むのではなく、個々に興味を持ったことを調べて皆の前で発表するというスタイルのもとで知識を身につける生徒が多いように思います。

そういう観点から考えると、小学校時代から読み・書き・計算の力をつけることが重要であることは言うまでもありませんが、何よりも大事なのは、子どもが持っている好奇心を摘まないことではないでしょうか。たとえば読書。読書の目的の一つは活字に慣れることにありますから、読む本の分野が偏っていても気にすることはありません。受験に役立つものを親が選ぶのではなく、子どもが興味のある分野の本をどんどん読ませてあげてください。好奇心が旺盛だと、それがモチベーションにつながり、自然とあらゆることに目を向けるようになります。本校の入試科目に社会科はありませんが、歴史・公民などにも関心を持ち、知識を深めようとする、そんな生徒が伸びていくことが多いですね。

次代に対応する幅広い知識と人間力を身につけてほしい
OBのネットワークを活用した取り組みも、貴校の大きな特徴の一つです。

十数年前より、自主学習のモチベーション向上を目的として、各方面で活躍するOBなどに授業をしてもらう『土曜講座』を実施しています。講師を務める方は医師、公務員、弁護士、経営者、小説家など多岐にわたり、テーマも医療やビジネス、語学、数学、哲学などに加えて、田植え・稲刈り体験や体力トレーニング、オペラといったものもあり、実に多種多様です。中高とも6月と10月にそれぞれ3日間・1日2コマで実施しており、30講座前後の中から年間に最大12講座まで選択することが可能です。最近では、これに刺激された本校教員が講師を務めるケースも増えてきました。英語の教員がハングル講座をやったり、生物の先生が戦国時代の講座を担当することもあります。

さらに春休みには、東京在住のOBの職場を訪問する『東京合宿』(3泊4日)も実施しています。県知事や作家など幅広い分野の方が協力してくださっていて、貴重な経験になっています。

そして直接社会に関わる経験という点では、ボランティアとして継続的に実施している、『東北合宿』も意義深い体験でしょう。現地で震災の話を聞いたり、福島の高校生たちと交流したりすることを通じて、社会のさまざまなことに目を向けてくれればと考えています。

そうした多様な学びを通じて、次代に向けて、どのような力を身につけてほしいとお考えでしょうか。

テクノロジーの進歩、とくに人工知能の問題が取り沙汰されていますが、生徒たちを待ち受けているのは、おそらく今とは全く異なる世界です。今までにはなかった新しい価値観やものごとに直面したとき、柔軟に対応するうえで求められるものは何か。それは、中等教育までに身につけた幅広い知識なのではないかと思います。だからこそ生徒たちには、得意分野だけではなく、不得意な分野にも頑張って取り組み、克服してほしい。また同時に“精力善用”“自他共栄”の精神を実践し、学力と教養を備えた「人間力」を培い、将来どんなことがあってもたくましく時代を生き抜いてほしいと思っています。

「伝統×革新」「教員×生徒」「中学×高校」…。すべてが融合した“渾然一体”という言葉が体現される新校舎。新しくなった図書館で授業を行うクラスも増えたという。

生徒主体で実施される文化祭は大いに盛り上がる。どんな行事でも先生はほぼ見守るだけ

『東京合宿』では、OBのネットワークを生かしてさまざまな職場を見学。

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