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進学通信No.65-東大寺学園中学校・高等学校
22
5月
  • 進学通信No.65-東大寺学園中学校・高等学校
  • 2016 . No.65 . 教育問答 . 東大寺学園 . 進学通信 .

東大寺学園

PROFILE
1954年生まれ、奈良県出身。1983年、東大寺学園に社会科教諭として赴任し、主に世界史を担当。のち4年間にわたり教頭を務め、2015年4月から現職。

東大と京大のダブル受験が可能だった1988年、東大に63名が合 格したことから全国にその名が知られるようになった同校は、東大 寺を経営母体とする中高一貫の男子校です。1926年の創設以 来受け継がれる自由な校風はそのままに、関西屈指の名門校とし て超難関国公立大学合格者を多数輩出し続けている同校校長・ 森宏志先生に、中等教育の役割や課題、同校ならではの教育に ついてお話をうかがいました。

自ら進む道を見出しそれに見合う学力を身につける場
高い進学実績を誇る貴校が、教育を実践するうえで大切にされていることは何でしょうか。

生徒の個性や自主性を大切にすることです。これは、創設当時から受け継がれてきた思いでもあります。本校が現在の場所に移転してきたのはちょうど30年前の1986年のことになりますが、それまでは東大寺の境内に校舎があり、1学年の生徒数が中学は90名あまり、高校は130名あまりという小さな学校でした。小規模ですと、中高の生徒が協力し合わなければならない場面も少なくはありません。文化祭をはじめとする学校行事は、中高が一体となって取り組んでいました。つまり本校は、学年を越えて互いの存在を認め合うというところからスタートしている学校なのです。

今でこそ本校は全国的に知られるようになりましたが、もともと進学校を目指していたわけではなく、気づけばそうなっていたという表現がしっくりときますね。そういう意味では、東大と京大のダブル受験で注目された後も、ステップアップしていこうという意識はありませんでしたし、自分で進路を見出し、それに見合った学力を身につけるというスタンスも変わりません。たとえ東京大学に
合格できる学力を持っている生徒であっても、他に行きたい大学があるのであれば本人の希望を尊重します。このスタンスこそが本校の伝統であり、現在も校内では、進学実績の良し悪しなどについて議論されることはほとんどありません。

貴校は医学部の合格者数が多いことでも知られています。

それは、10年ほど前からのいわゆる医学部ブームが関係しているかと思います。その背景の一つとして挙げられるのが、関西経済の地盤沈下です。本社機能を東京に移す企業が多く、文系の場合、関西で就職することが難しくなっ
てきています。もう一つは、関西は関東とは異なり、医師を目指しやすいということがありますね。国公立大学の医学部に絞っても選択肢が広く、たとえば大阪に住んでいれば、そのいずれを選んでも通うことができるのではないでしょうか。一方、関東では私立の医大を視野に入れざるを得ないのが現状です。

そうした背景から、もともと本校は文系がしっかりしている学校というイメージがありましたが、近年は医学部志向が強くなっています。学年によっては、理系の生徒が約220名中180名を超え、うち90名が医学部志望というケースもありました。ただ最近は少し落ち着いてきて、理系が160名くらい、うち国公立大学の医学部志望が60~70名といった感じです。

もちろん、医学部への進学に関しても教員が誘導することはありません。むしろ私自身は、生徒たちに幅広い分野で活躍してほしいと願っています。そこで中3と高1を対象に実施しているOBによる進路に関する相談会や講演会では、視野を広げられるよう、さまざまなジャンルからOBを招くことを心がけています。

リラックスした雰囲気の中で行われる授業。数学では解法について生徒から質問や提案がなされ、まさに理想的な双方向授業が実践されている。

知的好奇心を引き出し個性と
自主性を育むことが中等教育の使命
個性や自主性を伸ばすために重視されていること、実践されていることを教えてください。

まずは自由な校風です。本校には制服はもちろん、携帯電話のオンオフのルールなどを除いては、細かい規定もありません。なぜなら、規律ある空間を作りその枠にはめようとすれば、生徒にとってそこに適応することが第一となってしまい、それぞれの個性を潰すことになりかねないからです。それぞれに異なる個性を伸ばすためには、自由であらなければならないと考えています。

ただし、自由というのは単なる環境の問題です。自由にすること自体には何の価値もありません。大切なのは、その自由な雰囲気の中で、自分がやりたいことに取り組むということ。そのきっかけとなる興味・関心を引き出してあげることこそが、中等教育の役割なのではないかと考えています。

教科学習においても、そうした思いは色濃く反映されています。どんどん先に進むイメージを持たれてしまいがちですが、中2で中学の範囲を終える数学を除いては、あまり先取りはしていません。生徒たちは、中学入試に向けて小学校時代からいろいろな形で勉強をしてきていますから、教科書レベルの内容にとどまっていては飽きられてしまいます。理科では実験を多く取り入れるなど、進度よりも深度を重視した授業を展開しています。

私自身は社会科教諭として、単に高校の内容を取り入れるということではなく、いかに多くの引き出しを準備し、生徒の知的好奇心を刺激できるかということに力を注ぎました。比較的進度が早い数学も、単に解ければいいというわけではありません。生徒たちは教員がどのような解き方をしているのか、解き方のセンスを見ています。教員と生徒が不仲ということではないですし、生徒が教員に対して批判的だということでもないのですが、知的好奇心をもって考えた時に「その解き方はどうなんだろう」という疑問が自然と浮かんでくるのでしょう。それはとても大切なことで、教員が生徒の知的好奇心に応える授業を行うことが肝要だと考えています。

本校の授業をご覧になった方からはよく、「生徒がリラックスしている」とのお言葉をいただきますね。ときには居眠りしている生徒もいる、ごく普通の学校なんです(笑)。そういうのんびりとした雰囲気のもとだからこそ、数学の解き方に関するやりとりも気軽にでき、より有意義な時間を過ごすことができるのかもしれません。

貴校の生徒たちは、課外活動にも積極的に取り組み、それぞれに成果を出されています。そのことは、受験勉強だけにとらわれない雰囲気が、授業に限らず学校生活全体に漂っている証のように感じます。

クラブや同好会は、興味・関心を引き出すことにつながる場と捉えています。加入状況を見ると、高3を除く5学年が加入率90%以上、なかには掛け持ちなどにより100%を超える学年もあり、非常に活発です。

活動に制限を設けていないので、多くの運動系クラブは週5~6日は練習を行っていますし、私が中学サッカー部の顧問を務めていた時は、年間に百数十試合をこなしていました。スポーツ推薦入試は導入していないにもかかわらず、今年の近畿大会で総合3位に輝いた陸上競技部をはじめ高い実績を出すクラブもあり、本当にすばらしいと感じています。

同好会の中にはユニークなものがたくさんあって、たとえば『折紙研究会』のある生徒は昨年、ひとりで畳以上の大きさの紙を使い、1年かけて巨大な竜を折り上げました。

クラブ・同好会以外の課外活動としては、数学や物理の『国際オリンピック』などへの出場が挙げられます。なかには、高1・高2の時に『国際物理オリンピック』日本代表となり金メダルを手にし、高3となる来年度に3つ目の金メダル獲得を目指している、そんな生徒もいます。

課外活動の中には将来の目標に直結しないものもあるかもしれません。それでも、そうやって自分でやりたいことを見つけ、全力で取り組むことが大事だと考えています。

「すべての命を尊ぶ世界」という東大寺建立の精神と「世の役に立つ」という学園の精神を学ぶ『東大寺学』は、中学3年間で約15回実施される。写真は園児と交流して行う農業体験。

自由な校風のもと秘めた可能性を広げる
学校であり続けたい
グローバル化社会到来に向けて、大学入試改革をはじめ、教育改革が進められています。

中等教育が大きな転換期にあると言われていますが、個人的には、生徒の知的好奇心を引き出すという中等教育の担うべき役割は今も昔も変わらないと思います。たとえばアクティブラーニングの重要性が言われていますが、実際には、主体性を育む教育を地道に実践し続けている学校は数多くあるのではないかと感じますし、本校も、そこに腐心してきたという自負があります。

ただそれは、前進はしないという意味ではありません。特に英語に関して、いかに知的好奇心を引き出し、主体的な学びにつなげるかという点については、時代の変化にともない対応する必要があると思います。本校におけるその一つは、ネイティブ教員の増員です。大きな刺激となり、校内で模擬国連の活動が始まりました。全国大会に出られるレベルに達しつつあると聞いています。そうしたなかで、徐々に英語に関心を持つ生徒が増えてきました。

それを受けて今年度からは、高2の希望者を対象にオックスフォード大学への短期留学も導入しました。事前に与えられた複数のテーマについて自分なりに準備をして臨み、現地では大学生を相手に発表やディスカッションを行います。語学力はもちろん、知識や表現力、精神力も求められるプログラムです。大変な思いをしたとは思いますが、参加した生徒からは「価値観が変わった」という声が聞かれました。英語を使いこなすことができれば、自分が知らなかった世界へ入っていくことができる。大学受験のためだけではなく、コミュニケーションツールとして学び、身につけたい。そういった意識転換の機会となったようです。

中等教育の課題として感じておられることや、貴校の今後についてお聞かせください。

私自身は、大学合格実績ばかりがクローズアップされる傾向にある現状に、「これでいいのかな」という疑問を抱くことがあります。中等教育においては人と関わり合いながら前へ進んでいく体験を大切にすべきだと思うのですが、それがだんだん薄らいできてしまっているように感じるのです。

そういう観点からも大切にしていきたいなと考えている取り組みの一つが、中学生を対象とする本校独自の授業『東大寺学』です。仏教的なものの見方を学ぶ講義形式の授業以外に、東大寺幼稚園の園児たちと一緒に、境内の一角にある田んぼで田植えから稲刈りを行ったり、おもちつきを楽しんだりするプログラムも用意しています。

もう一つは、子どもたちの人間力をいかに鍛えるかということです。グローバル社会と聞いてどんなシーンを思い浮かべるでしょうか。先進国のビジネス街で活躍しているかもしれないし、開発途上国に赴き貢献活動に携わっている
かもしれません。そうした世界各国の多種多様な現場で仕事をこなす真のたくましさを身につけるためにも、周囲の大人が過干渉になってはならないと思っています。

そうした課題を踏まえ、本校のビジョンを言葉にするならば、学校という枠組みがあるなかでも可能な限り、生徒たちがやりたいこと、好きなことを見つけ、それに打ち込むことができる学校であり続けることです。そうした環境があれば自ずと、個性や自主性、知的好奇心はもちろん、思考力をはじめとする国際社会で求められる素養も培うことができると信じています。

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