世の中にはさまざまな職業がありますが、私が教員を目指そうと思ったのは、「英語が好きで、好きなことを活かして仕事がしたい」と思ったからです。中3のときの英語の先生がとてもユニークな方で、授業を通じて英語を学ぶ楽しさを教えてくださいました。この先生との出会いがきっかけとなり、英語科の教員になりたいという思いが強くなりました。
大学卒業後は、大阪府下の2校の公立高校でトータル19年間、英語科の教員として教鞭を執りました。その後、大阪府教育委員会指導主事として務めた後、18年前に英語教育と国際教育を担うべく本校に赴任しました。私自身が学んだ中学、高校は公立、19年間教鞭を執ったのも公立高校ということで、赴任当初は、「私立学校とはどういうものか」を、一日も早く理解するように努めました。やがて授業や国際教育に関すること、学校行事などに取り組む中で私立と公立との大きな違いがわかりました。それは、「私学には建学の理念がある」ということです。
本校は、“宗教的情操教育を根幹に豊かな知性と感性を育む” を建学の理念とし、これに基づいて『宗教的情操教育』『豊かな人間性を培うしつけ教育』『完全中高6年一貫教育のきめ細やかな学習指導』を教育方針として、“やさしく、かしこく、美しい女性”を育んできました。
建学の理念は、教員の心に宿り、校舎の隅々に染み渡り、校風となって、時代を超えて受け継がれていくものです。ですから、学校教育には、時代の流れに沿って変わるべきものがありますが、建学の理念は何があっても不変でなければいけません。それは、その学校の存在意義なのですから。
本校が、時代に沿って変えてきたことに“コース制”が挙げられます。短期大学で学ぶことが一般的だった1970 年代、4年制大学への進学率が増えた80年代など、各年代ごとにコース編成を見直し、時代の要請に応えてきました。現在、『医進コース』『特進Ⅰコース』『特進Ⅱコース』といったコースが編成されていますが、2015 年度からは『凜花コース』という新コースを設置することとなりました。
『医進コース』は、難関国公立大、私立大の医系学部および難関大理系学部を目指します。『特進コース』は、文系・理系を問わず難関国公立大および私立大の現役合格を目指すコース。そして『凜花コース』は、これからの時代を見すえた文系コースと位置づけています。
『凜花コース』の目的は、新時代に生きるグローバルな女性を育成することにあります。日本の伝統文化を重んじることで自らの存在意義を知り、多様な文化や価値観を受け入れる“グローバルマインド”。表現力を磨くと同時に、相手の立場で物事を考え、理解する“コミュニケーション”。日本語、英語を適切に使いこなし、ICT 機器を活用して伝えたいことを発信する“プレゼンテーション”。これら3つの力を培っていくのです。
授業は、海外留学や国際交流、日本の伝統文化の習得、各種コンテストへのチャレンジなど、参加型、体験型を中心に展開します。他コースとは異なるさまざまなプロジェクトを軸とする授業で学んだ6年後には、私立大文系学部への進学とともに、関関同立への指定校推薦や、大阪大谷大学への学内推薦などの進路も開かれています。
先日、匿名で年配の女性から本校に連絡がありました。その方に「地下鉄の駅で大きな荷物を持って困っていたところ、大谷の生徒が『お手伝いします』と言って、私の荷物を持って階段を上ってくれました。感激しました」という言葉をいただきました。その話を聞き、本校の生徒は“やさしく、かしこく、美しく”育っていることを実感しました。新コースがスタートすることで、大谷らしさが一層花開くと思うと、期待で胸がいっぱいになります。
雪矢 敏明(ゆきや としあき) 校長先生 PROFILE
1953年、大阪府生まれ。関西学院大学文学部英文学科卒業後、英語科教員として大阪府立大東高等学校で8年、大手前高等学校で11年、教鞭を執る。その後、大阪府教育委員会に2年間在籍。1996年、大谷中学校・高等学校に英語教育、国際教育の担当として赴任。国際教育部長、入試対策部長、進路指導部長、教頭を務めた後、2014年、校長に就任。“精神一到何事か成らざらん”を座右の銘とする。
(取材・文/近藤早智子 撮影/中森健作)