キリスト教の価値観に基づき「魂を育てる」「知性を磨く」「実行力を養う」を教育方針とする同校。母体の聖心女子学院は、世界の一員としての連帯感と使命感を持ち、社会に貢献する女性の育成を目指しており、夏休みに行われる高2・高3希望者対象の姉妹校合同海外体験学習は、この教育理念に沿った取り組みの一つです。
「行き先はフィリピン、カンボジア、タイ、韓国、台湾。現地の文化や歴史とともに生活環境や問題点を事前学習して臨み、人々との交流や体験を通して国際的な視野を養い、広い世界の中で自分に何ができるのかを考えます。滞在中に記録したノートを見ると、生徒たちが多くのものを得たことがわかります」(青山礼子先生)
帰国後は、貴重な体験をホームルームや学院祭などで全生徒の前で発表します。単なる感想ではなく、心で感じ、糧となったことを皆に伝えていくのです。
「台湾や韓国の聖心生とはさまざまな交流を通じて、すぐに打ち解けることができます」と生徒たち。言葉の壁を越えて、深い部分で理解し合えていることを実感し、世界中どこにでも家族がいるという、聖心の心のつながりを感じることができるのです。
タイで姉妹校(ナワミン高校)との交流会やホームステイを体験。マングローブ地域や小学校、アユタヤ史跡を訪問し、タイの歴史と文化を学んだ。
「思春期の生徒が現地の人々と交流すれば、大人よりも深く心が揺り動かされるはず。そのためにも基本的なコミュニケーションツールとしての英語力が必要だと実感するのです」(青山先生)
韓国では慶州の仏国寺や釜山の汎魚寺(写真)、独立記念館などを見学。「互いの国を理解するためにも、一方的な歴史認識を持たず、もっと勉強しなければと思いました」(Kさん)
韓国聖心を訪問。「韓国人の反日感情が不安でしたが、みんなにやさしく接してもらえて感動。ホストマザーが、私のために腕をふるってくれた参鶏湯(サムゲタン)の味は一生忘れないでしょう」(Kさん)
台湾聖心で民族ダンスを練習し、最終日に各国から来た聖心生の前で演技を披露。台湾にはアメリカ、オーストラリア、メキシコ、韓国、日本からの聖心生が参加。
「学校行事や生活習慣で共通点が多く、皆すぐ仲良くなれます。将来は国際的に人と関わる仕事に就きたいという思いが強くなりました」( I さん)
「裕福な外国人がアンコールワットを観光するかたわらで、裸足で物売りをしたり、ゴミ収集所内の小学校で学んだりする子どもたちがいるのは、日本では想像もつかないこと。自分には何ができるのかを考えていきたいです」(Sさん)
「教育を否定していたポル・ポト政権時代の負の遺産が今も残るカンボジア。すべての子どもたちが小学校に通うことさえ難しく、高校や大学に進学できるのは裕福な人たち。日本で自由に学べる幸せを大切にしたいです」(Sさん)
「貧富の差が激しいフィリピン。ゴミに囲まれて暮らす人々も、台風で家を流された子どもたちも笑顔で私たちを迎えてくれました」(Fさん)。
「ホームステイ先は快適でしたが、一歩家を出ると路上生活者が道ばたに寝ている現実にショックを受けました」(Nさん)
フィリピンでは現地の高校生と交流し、民族衣装を着てバンブーダンス。「幼稚園を訪問したとき、おやつを食べずに病気のお母さんのために持ち帰った園児から、人を思いやる大切さを学びました」(K.Kさん)
フィリピンでは人々との交流を通して、文化や社会、経済、宗教の実態を学んだ。「募金活動を通じてフィリピンには親しみがあったので、この国をもっと知ろうと参加。とれたてのフィリピンバナナが美味しかったです」(K.Kさん)
K.Kさん
「フィリピンの貧民街を訪ね、私たちは途上国に対して“支援”という上からの目線ではなく、協力し合って発展できる方法を考えなければと思いました」
Nさん
「フィリピンには教会が多く、信仰は生活の一部。人々は仕事の合間にミサに参加して聖歌を歌い、生きていることに感謝します。貧しくても笑顔でいられるのは心が豊かだからとわかりました」
Sさん
「テレビに映るカンボジアの観光地は美しいけれど、地方の道路はデコボコでインフラも整備されていません。きれいな面だけを見るのではなく、多角的な見方を持つことが必要だと感じました」
Kさん
「韓国料理“プデチゲ”は、朝鮮戦争でアメリカ兵が残した食べ物を集めて煮込んだものと、ホストファミリーに教わりました。つらい歴史を聞いたのが衝撃的でした」
Iさん
「各国の聖心生と関われるのが台湾海外体験学習。宿舎では毎日さまざまな言語が飛び交いましたが、記念写真では全員聖心のハートマークでポーズ。聖心は大きな家族です」
びっしりと書き込まれたノートからは、滞在中の生徒の心の動きが伝わってくる。
( 取材・文/大松有規子)