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進学通信No.64-関西大学第一中学校・高等学校
01
4月
  • 進学通信No.64-関西大学第一中学校・高等学校
  • 2016 . No.64 . PICK UP TOPIC . 進学通信 . 関西大学第一 .

 大学併設校である同校の大きな魅力の一つは、受験に特化しすぎることなく、さまざまな活動を体験できる点にあります。中学で展開している環境学習もその一つ。3年間を通じて行う『能勢プロジェクト』、中2の『自然教室』や中3の『研修旅行』といった宿泊をともなう行事、期限切れ飲料の再利用を手掛ける企業の見学など、多彩なプログラムが用意されています。

 なかでも独自性の高い取り組みが、2009 年からスタートした『能勢プロジェクト』です。導入に携わった入試広報主任・大西隆先生は次のように語ります。
「和歌山での自然教室、沖縄での研修旅行に行く前に、水や土といった身近なもの、身近な地域について学べる機会があったほうがよいのではと考えるようになったことがきっかけです。できればたくさんの人手が必要なものを探していたところ、能勢で遊休農地を元の姿に戻す活動が行われていることを知りました」

真●『能勢プロジェクト』を中学3年間を通して実施することにしたのは、先輩から後輩へ、あるいは後輩から先輩へ受け継いでいく取り組みにしたいとの思いから。何度も足を運ぶことで、自分たちの努力が報われていることを実感することができる。

『能勢プロジェクト』の最大の特徴は、子どもたちが活動し学ぶために何かが用意されているのではなく、現地の人々が本当に必要としていることに取り組む点にあり、作業の内容は現地で知らされます。田植えや稲刈りといった、ボランティアとして人気の高い作業はほとんどありません。たとえば最初の年の活動は、森林の獣害を防ぐための柵づくりでした。支柱を立てるための穴を掘り、その穴が塞がらないよう金属のパイプを入れ、支柱を立てて…。気づけば、何もなかったところに2・7kmもの柵が出来上がっていたそうです。
「マンパワーの大きさをあらためて実感しました。生徒たちにとっては新鮮で、夢中になって取り組んでいましたね。そして現地の方々から『ありがとう』と言ってもらった瞬間、ぱっと表情が変わりました。誰かの役に立てる喜びや、その達成感を味わうことができたのではないかと思います」(大西先生)

写真●『能勢プロジェクト』では、遊休農地の雑草を取り除いた後、トラクターが入れるように根起こしをするなど、大人でも大変だと感じる作業もこなしてきた。スタートした翌年の春には、すでに田んぼの姿になっていたそう。作業は多岐にわたり、車が通れるように、コンクリートを使って山道を作ったことも。


 一方、中2の『自然教室』では、和歌山・日置川地区の農業・林業・漁業を営む家庭にホームステイし、作業を手伝ったり、自然の恵みを生かした手料理をいただいたり、薪を割って風呂を焚いたりと、普段とは全く違う生活を体験します。日置川地区の良さは“あるがまま”で迎えてくれる点にあると言います。
「能勢プロジェクトにも言えることですが、全天候型の活動がわざわざ用意されているわけではないので、活動内容は天候に大きく左右されます。11月半ばの農閑期ですから、無理に農作業を行うこともありません。現地の方々は“ほんまもん体験”とおっしゃっていましたが、その言葉どおりです」
●写真●多くの生徒が、最も印象に残っている行事として名を挙げる『自然教室』。「普段の生活のありがたみを実感した」「何気なく食べている野菜の一つひとつに作り手がいて、多くの人の手を介して自分の元に届いていることを知った」といった言葉から、貴重な学びの場となっていることがうかがえる。


●写真●中2の『自然教室』では、ホームステイ先で高齢者の方が倒れるなど、想定外の出来事が起こることも。「その際は生徒たちが迅速に対応して救助に一役買い、とても感謝されました。実は、過疎や高齢者の問題に触れる機会にもなっていることに気づきました」(大西先生)


 “ほんまもん”へのこだわりは、中3の沖縄研修旅行にも反映されています。特に顕著なのは2日目。無人島でシュノーケリングを行い、珊瑚の海やマングローブの川を観察しますが、蛇口から出るのは飲むことのできない雨水だったり、トイレの屋根が台風で飛ばされていたり…。あるがままの異空間が、生徒たちを出迎えます。
 これまで大西先生とともに行事づくりに取り組んできた中学教務主任・白瀬隆明先生は、「単なる観光でなく、学校として訪れるからこそ体験できることを盛り込みたいという思いでやってきました。内容も、本校だからこそできるものだという自負があります」
 と語ります。


●写真左●修学旅行としての意味合いも強い『沖縄研修旅行』。学年によってカラーがあり、特に平和学習の内容には、「ここを見せたい」「このことを知ってほしい」といった学年の教員の思いが色濃く反映される。戦時中の避難場所を訪れた学年もあれば、外から普天間基地を見学した学年もあるそう。
●写真右●『沖縄研修旅行』は、そこにしかない自然、その美しさを肌で感じることができる貴重な機会。「海の中が幻想的だったとか、珊瑚が綺麗だったとか、そういうことでいいんです。しっかり見て、何かを感じてくれたらと思います。ゴミが落ちているとどこから流れ着いたものかを観察するなど、中1・中2の環境学習の成果を感じる瞬間もあります」(大西先生)

 まさに、教員のこだわりが凝縮された環境学習。それだけに、「これらを通じてどのように成長してほしいか」という問いに対する先生の答えがとても印象的でした。
「環境に関して、自分たちにできることがたくさんあるということを理解してほしいですね。こうなってほしい、こう考えてほしいというイメージは、特にありません。各自の視点から、何かを考えてくれればと思います」(大西先生)
「困っている人のために役立ちたいという気持ちが育ったり、沖縄に行くころには観察眼が養われていたり、成長が感じられる場面は多々あります。ただ一番大切なのは、気持ちや感情を表現すること。単に大変だったということでもいいんです。あるいは親のありがたみを実感するなり、現地の人と別れを惜しむなり、沖縄の海に感動するなり、心を動かしてほしい。そうした体験やそれらから得たものが、高校・大学と進んでいく中で生かされればいいと思っています」(白瀬先生)

 教員の強い思いと、同校の校風でもある自由な雰囲気。その絶妙のバランスこそが、生徒一人ひとりの個性と未来を最大限に輝かせる礎となっているのです。


●写真●生活に関わる環境問題に触れる機会として、企業から排出される期限切れ飲料の再利用を行う会社を訪問。身近な問題を現代社会全体の環境問題とリンクさせ、賞味期限、消費期限について考えるきっかけとなる、消費者教育の要素も取り入れた学びだ。

(取材・文/小河砂綾 撮影/中川誠一)


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